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研究の紹介

主な研究課題

1.サケ科魚類の成長の内分泌調節メカニズム

2. 生理学的手法を用いたサケ・マス稚幼魚の成長評価

3. サクラマス群の生活史特性に関する研究

※上の課題に加えて、ノルウェー・ベルゲン大学との国際共同教育・研究を推進しています。

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1. サケ科魚類の成長の内分泌調節メカニズム

 魚類の成長は、光周期、水温、餌およびストレスなどのさまざまな要因の影響を受けています。内分泌学的には、魚類の成長は成長ホルモン(growth hormone, GH)インスリン様成長因子(insulin-like growth factor, IGF)-1により調節されています。脳下垂体から分泌されたGHは主に肝臓を刺激してIGF-1の合成を促し、血中に分泌されたIGF-1が骨や筋肉などの標的器官に作用して成長を促進します。この他にもGHとIGF-1がそれぞれ独立して直接的に作用する場合も知られています。これらをGH-IGF-1系(もしくはシステム)と呼びます。

GH-IGF.gif

 IGF-Iは、血中で特異結合タンパク質(IGF-binding protein, IGFBP)と結合しています。IGFBPはIGF-1を運搬するだけでなく、IGF-1の活性を阻害もしくは促進する役割を持っています。ヒトでは6種類のIGFBPが同定され、それぞれのIGFBPが異なる機能を持つためGH-IGF-1系の重要な構成要素です。(真骨)魚類でも6タイプのIGFBPが存在しますが、本グループに特有のゲノムの倍化により、11種類のIGFBP(もう1つは消失)が存在すると考えられます。加えて、サケ科魚類では、さらなる全ゲノム重複により22種類が報告され、複雑な機能分担が予想されます。本研究グループはサケ科魚類の血中に複数存在するIGFBPに着目し、それらの生理的役割を明らかにすることを目指しています。

 現在は、サケの主要血中IGFBPの組換えタンパク質を作製して、機能解析免疫測定系の確立を主に行っています。機能解析では、サクラマス脳下垂体培養系を用いて、IGF-1のGH合成・分泌阻害作用がIGFBPによってどのように調節されるのかを調べています。また、国際共同研究として、ノルウェー・ベルゲン大学のグループとサケの海水適応能と成長との関係を明らかにして海面養殖の効率化を目指すとともに、米国冷水養殖研究所(National Center for Cool and Cold Water Aquaculture, USDA)のグループとニジマスの血中IGFBPのゲノム編集によるノックアウトを行い、成長への影響を調べています。

2.生理学的手法を用いたサケ・マス稚幼魚の成長評価

 サケ・マス稚幼魚は海洋生活初期にほとんどが減耗すると考えられ、この時期の成長度合い(速度)の良否が生残ひいては資源加入に影響することが示唆されています。しかし、野外で成長速度をリアルタイムで測定・評価することは非常に困難です。本研究は北海道総合研究機構さけます・内水面水産試験場と共同で、成長を司る内分泌系を指標に用いて網走沿岸域のサケ・マス稚幼魚の成長速度を評価し、その後の生残を推定することを目的としています。2013年から5月〜6月に網走沿岸で調査をするとともに、飼育実験を行って、成長の生理学的指標(IGF-1と IGFBP)が栄養状態や塩分の変化にどのように反応するのかを調べています。また、海洋でのサケ・マス若魚の成長のモニタリングを水産研究・教育機構水産資源研究所米国北西海区水産研究所(Northwest Fisheries Science Center, NOAA Fisheries)のグループと共同で解析を行っています。

3. サクラマス群の生活史特性に関する研究

 サクラマス(もしくはヤマメ)は、北海道を分布の中心に持つ東アジアの固有種です。サクラマスには各地域の環境に高度に適応し亜種レベルまで分化したアマゴビワマスといった系群が存在し、サクラマス群と総称されています。サクラマス群の生活史は変異に富み、アマゴは春ではなく秋に海に下り、ビワマスは海ではなく湖に下って一生を淡水で過ごします。特にビワマスはサクラマスの祖先型から派生し、ビワマスに非常に長い間(50万年とも推定されています)陸封されて遺伝的に海水適応能をほとんど持たないとされています。

MasuLifeHistory.jpg

 このように遺伝的分化がおよび生活史変異が大きいサクラマス群の保全や増殖には、各群の生活史特性に合った方法を探る必要があります。私の研究グループではまずビワマスの海水不適応能に着目し、その分子基盤を理解することを目指しています。本研究は、滋賀県水産試験場との共同研究により行われています。(※2020年〜2022年のコロナ禍のため残念ながら中断中)。

​ 北海道のサクラマスは通常ふ化後2年目の春に河川生活型のパーから海洋生活型のスモルトに移行して海に下ります。このスモルト化の過程で体色の銀白化、体型のスリム化、海水適応能の獲得、降海行動の発現などの一連の変化が起きます。これらの変化は独立と考えられており、春の日長増加により結果的に同調していると考えられています(光周期依存的なスモルト化)。一方、春以外にも一定の体サイズを超えた個体で銀白化することが知られています。私達の研究グループは、このような体サイズ依存的なスモルト化が1年目の秋までに起きることを見出しました。現在、これらの二つのスモルト化過程を枠組みとし、七飯淡水実験所での飼育実験を通して生活史分岐のメカニズムを研究しています。

 また、宮城県のサクラマスの生活史特性について、宮城教育大学のグループと、宮崎県のヤマメの淡水中での海水適応能の発達過程や海水での成長を宮崎大学農学部のグループと共同研究により調べています。

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